STORY

はじめまして。この事業を立ち上げたNinaです。

私は2019年の夏、35歳でがんになりました。

宣告を受けたとき、気が動転しました。

漠然と続くと思っていた日常に突然大きな変化が訪れたからです。

とりわけ、抗がん剤の副作用によって子どもを作る能力が失われるかもしれないと告げられ、とてもショックを受けました。

でも、長く悩んでいる時間はありませんでした。

進行し転移するがんの性質上、急いで病気への理解を深め治療法を選択し、仕事を調整し、経済的な問題に対応をしなければなりませんでした。

  

 

必要な情報を集めること、気持ちや症状を伝えることの難しさ

短期間で治療法の選択、職場や周囲への連絡、経済的な問題への対応を行うのは容易ではありませんでした。

まず自分の病気、治療法を理解するのは簡単ではないと感じました。

「がん」といっても、種類や進行状況によってそれぞれ治療内容が異なり、

治療する上で患者の希望、からだの状態なども治療の選択に関わることがあるとわかりました。

もちろん、主治医が詳しく説明してくれましたが、自分でも「がん」や治療法について調べました。

しかし、数多くある情報から医学的な裏付けのあるものを選び、その上で治療法を検討していくのは大変でした。

他にも、仕事・日常生活・社会保障制度などの情報を集めるには多くの時間がかかります。

 

とりわけ1週間程度で、さまざまな情報を探しだし、治療方針を決定し、必要に応じて申請することはとても手間のかかる作業でした。

治療が始まってからは、副作用のつらさや痛さといった自分自身にしかわからない症状を周りにどのように伝えるのかといった悩みがありました。

 

 

この事業を始めようと思ったきっかけ

現在、多くの団体ががん患者支援のために病気のこと、治療のことなどをわかりやすく発信し、がんになっても働けるよう就労支援を行っています。

病気や治療などについて理解するときには非常に役立ちますが、がんと診断され動揺している中ではかえって情報が多すぎて混乱してしまいます。

それだけでなく「抗がん剤によって子どもをつくる能力が失われるかもしれない」といった情報は事前に知識がなければ対応策を調べることさえできません。

自身に関係する情報を得るために、担当医や看護師にどのように気持ちや希望を伝えればいいのか、また情報の非対称がある中でどのように効率的にコミュニケーションをとればいいのかといった問題もあります。

もちろん「がん」の種類、病状、年齢やライフスタイルは人によって違うため、必要な情報もそれぞれ異なってきます。

それでも、必要最低限何をどのようにしなければならないのかを俯瞰的に捉え、治療や医療従事者とのコミュニケーションに役立つものを作りたいと思い、この事業を始めました。

 

 

【VISION】この活動を通して実現したいこと

 

 この活動を通して実現したいことは2つあります。

 がんと診断された人の不安や心配を軽減できるものを作りたい

毎年約100万人が「がん」と診断されます。

がんと診断されると、これからもずっと続くと思っていた日常生活は大きく変わります。

それでも治療法を決定するための検査は進み、気持ちや考えを整理する時間はほとんどありません。

約60%の人が「がん」と確定診断されてから1か月未満、そのうち30%の人は2週間未満で治療を開始しています。(*1)

他方、がんと診断されて2週間程度は気分の落ち込みが激しいことがわかっています。(*2)

つまり、多くの人が精神的に不安定ななか、短期間で治療法の選択、仕事の調整、経済的な問題への対応を行っているのです。

このように対応しなければいけないことが多く、がんと告知され困惑しているなかでは、必要な情報にアクセスできない可能性があります。

また、診断後の医療従事者との円滑なコミュニケーションは「患者が尊厳をもって安心して療養生活を送るために重要な要素」(*3)とされています。

しかしながら、多くの患者が医療従事者に自身の気持ちやつらさをどう伝えればいいのか、言いたいことが上手く表現できない、伝わらないといった悩みを抱えています。

 このようながんと診断されてからの不安やつらさ、困りごとを少しでも軽減するサポートができないかと考えています。

 

がん治療中の人に社会と関わる場所を提供したい

2018年、国立がん研究センターがん対策研究所が行った調査によると、収入のある仕事をしていた約20%の人が「がん」と診断された後、離職していました。(*4)

この割合は改善されてきていますが、残念ながら治療のために仕事を辞めなければならない人がいます。

離職をすると収入はもちろんのこと、社会との関わりも絶たれます。

特に抗がん剤治療中は免疫力も下がり、脱毛などで見た目も変化することから、

人付き合いに消極的になり、病院と家の往来だけというがん患者も少なくありません。

それだけでなく治療中は約50%の人が家族に負担や迷惑をかけていると負い目も感じています。(*5)

このような社会や家族からの疎外感や孤立感は大きなストレスになり、心の病気になったり、治療の妨げになったりすることがあります。

近年、患者の支援の課題として「孤立することなく、がんと共に暮らすことができる社会となるように整備する」ことが挙げられています。(*6)

解決策として、がん相談支援センターや同じ病気など似た境遇にある人たちと交流する患者会など孤立を防ぐ取り組みが行われてきました。

しかしながら、そのような場に参加することに心理的な負担を感じる人もいます。

 

この事業では、がん治療中の人に仕事を通して社会とのつながりを生み出し、交流の場とは違う形で患者の疎外感、孤立感を和らげたいと考えています。

 

 *1:国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策情報センター、厚生労働省委託事業「平成30年度 患者体験調査報告書」

*2:国立研究開発法人 国立がん研究センターがん情報サービス『患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版』

*3,4,5,6:国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策情報センター、厚生労働省委託事業「平成30年度 患者体験調査報告書」

https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/health_s/H30_all.pdf